3.個室での食事

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「残された一人娘を男手一つで一生懸命に育てた。そんな生活に疲れていた時に、友人が君の店へ気晴らしにと連れて行ってくれた。写真の中に妻に似た女性がいた。それが凜、君だった」 「そんなに亡くなった奥さんに似ていたのですか?」 「一目見て君は妻に生き写しだと分かった。しゃべり方も笑い顔も、それに身体も。だから、君を何回も指名したし、店を変わっても探して通った。そして、君はずっと僕を癒し続けてくれた。突然いなくなって、何と寂しかったことか。僕は妻を二度亡くしたようだった」 「私はあなたの奥さんの代わりだったの?」 「そうだったかもしれないし、そうじゃなかったかもしれない」 「どういうことですか?」 「逢瀬を重ねるごとに、もちろんだけど、妻とは違うことが分かってきた」 「どんなところですか?」 「Hが好きだし上手だ」 「うふふ、そうかもしれないわ」 「それは冗談だけど、今日付き合ってみて、妻にはなかった君の新たな面が分かった。だから普通に交際を続けて君をもっと知りたいと思っている。もう僕は君を妻の代わりとは思っていないし、代わりにしたい気持ちもない」 「私も普通に付き合うってどういうことか興味があって、お付き合いを続けます」 「ありがとう」 やはり個室を予約しておいて良かった。落ち着いて話ができた。凜も周りを気にすることもなくゆっくり食事ができたようだ。 車を呼んで表参道で凜を下ろして、僕は自宅へ帰った。凜は車を使わないで地下鉄でいいと言ったけれど、今日は和服で目に付くからと言って車で送った。 自宅に戻ると今日の凛の和服姿が思い出される。久しぶりにのんびりした楽しい休日を過ごすことができた。 妻が生きていればきっと今頃二人でこんな休日を過ごしていたかもしれない。そう思うと亡くなった妻に申し訳ない気持ちになる。 僕の自宅は洗足池にある2LDKのマンションだ。セキュリティがしっかりしているので、帰りが遅くなりがちな僕は娘が一人で部屋にいても安心だった。 今は娘も出て行ったので一人暮らしになった。一人だと十分な広さがあるが、掃除などを考えると広すぎる。
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