1.偶然の再会

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今日の懇親会は上手くいったが少し疲れた。部長になってからはこういう機会が増えたが、ようやく慣れてもきた。 2次会は表参道の会社で使っているバーに行った。1次会で既に相手の部下と付き添っていた僕の部下は帰した。2次会では部長同士で差しでの話もできた。 飲みニケーションはあまり好きではないが一定の効果もあることは認めている。僕は駆け引きなしの本音で話し合える関係が一番だと思っている。話の裏の裏まで読もうとすると疲れてくる。 まずは自分が本音で話すことが大事かも知れないが、徐々に信頼関係を構築していくしかない。店で車を呼んでもらってお客を乗せて見送った。これで終わりだ。 どうしようか車を呼んで帰ろうか、まだ10時を少し回ったところだ。家に帰っても誰もいない。酔いを醒ますために少し歩きたいと思った。 もう秋も半ば、外に出ると清々しい風が吹いている。晴れてはいるがここでは星が見えない。 専務の話では、接待は昔とは違いこのごろは回数もかける金額も減ってきたとのことだ。時代の趨勢だとか。 とはいうものの気を使う。せっかく招待したのだから楽しんで良い印象を持って帰ってもらいたい。 この地位になると招待したりされたりだが、招待されたときはできるだけ楽しそうに振舞うようにしている。いずれにしても気疲れする。 細い路地の途中に古いドアのスナックがあった。中の様子を窺うと歌声はしない。どういう訳か入ってみる気になった。 ドアを開けるとこじんまりした店内には客が二人ばかりいたが、落ち着いた雰囲気だった。 空いている止まり木に腰を落とす。カウンターの中にいたママとおぼしき若い女性がおしぼりを持ってきた。 どこかで見たような顔だと思った。ああ、亜里沙! 髪を短くしていたが、間違いなく亜里沙だった。 僕が驚いたようにじっと見ているので、彼女も僕を見つめた。ママは一瞬驚いた様子だったが、すぐにほほ笑んで「いらしゃいませ」と言った。 僕はどう言っていいか分からずに「こんばんは、ここは初めてです」と言うと「はじめまして、ママの寺尾(てらお) (りん)です」と言って、名刺を差し出した。 返礼に僕も名刺を出した。ママはそれを両手で受け取ってじっと見ている。
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