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「良いところにお勤めなんですね」
「そうかな、なんとか子供を育てていけるくらいの給料はくれたからね」
「お子さんは何人なんですか?」
「娘が一人いるけど、今年の3月に大学を卒業した。就職して大阪に住んでいるので、今は一人暮らしだ」
「奥様は?」
「10年前に無くした」
「そうだったんですか、お寂しいですね」
「家へ帰っても誰もいないので、ぶらぶらしていて偶然にここに寄せてもらった」
「ありがとうございます。これからもご贔屓にお願いします」
「水割りを作ってくれる、薄めで頼みます」
「もう随分飲まれているんですか?」
「今日は招待する側だったから、そんなに飲んでいないけど、少し疲れた。ここが3次会かな」
他愛のない初めての客としての会話が進む。
「ここはいつからやっているの?」
「この店は随分昔からあったと聞いていますが、私が勤めたのは2年前です。オーナーが高齢で引退したいと言うので、1年前にここを譲り受けました」
「一人でやっているの?」
「ええ、細々と。お陰さまでお馴染みさんも段々増えてきました」
カウンターの二人連れのお客が帰ると言っている。丁寧に挨拶してドアの外まで出て見送っている。客商売は大変だ。
ママは戻るとすぐに看板の明かりを落としてドアをロックした。でもまだ11時くらいだ。
「お久しぶりです。その節はお世話になりました」
「お世話になったのはこちらの方だよ、いつも癒されていたから」
「山路さんは本名だったんですね」
「君の名前は」
「名刺のとおりです」
「凛か、良い名前だね、響きがよくて」
「今日はゆっくりしていってください」
「急にいなくなったので、心配していたよ。身体を壊したのではないかとね」
「あの仕事に急に嫌気が差して、それにいつまでも続けることができないのは分かっていましたから」
「確かにそうだね、早く足を洗ってよかったかもしれないね」
「でもね、改めて働くとなると、どうしてもこういう水商売しかなかったの」
「水商売も立派な職業だ、あの仕事も人を癒してくれる立派な職業だと思うけど」
「普通の人はそうは思わないわ」
「人それぞれだからしかたがないさ」
「世間の目は厳しいのよ」
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