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私がタカヒロの部屋を出ようとすると、背中から声をかけられた。
「カナ」
「んー?」
「カナって、かわいいよな」
は? と言いながら振り向いた。タカヒロは真顔だ。私は赤面している。
「長い髪がよく似合ってる。髪の色がブラウンになってから軽やかさが出て、いっそう顔が明るくなったと思う。立ち居振る舞いも女子っぽくてかわいらしいし」
「い、いや立ち居振る舞いはふつうでしょ……ていうかなに? どうしてそんなこと急に言うの?」
「必要なんだ」
「なにによ」
「なんでも。肩が少しとがってるのもかわいいし、制服姿もかわいいけど、今日のスカートもかなりかわいい。膝の形がきれいだよな」
「わ、わけ分かんない」
私はキッチンに向かい、階段を下りた。前々から変なやつだとは思っていたけど、今日は輪をかけておかしい。
もとから、男のくせにかわいいケーキが好きだったり、ハーブティだの光る鉱石だの変わった趣味があったけど、あまりストレートにこんなことを言うやつじゃないのに。
キッチンに入り、タカヒロのお母さんに心の中で「勝手にすみません」と唱えつつやかんにお湯を沸かした。
黒い缶のふたを開けると、とてつもなくいい香りがした。深く澄んだダージリンに、ほのかに花のようなニュアンスがある。
「うっわ、いいにおい……高そう」
透明のアクリル製ティーポットに葉を入れ、お湯を注いだ。
茶葉は対流に飲まれて踊る。たちまちお湯が紅茶に代わり、明るい琥珀色に染まっていった。
「ああ、やっぱり上手だな」
「うわ、びっくりした」
すぐ後ろに、いつのまにかタカヒロが立っていた。
タカヒロは冷蔵庫を開けると、中から紙の箱を取り出す。
「なにそれ」
「ケーキ」
「へえ、タカヒロが作ったの」
わざと冗談で言ったのだけど、
「そうだよ」
とあっさり答えられて、私はまた驚く。
「え! 食べるだけじゃなくて、とうとう作るところまで!」
「そう。ほら」
タカヒロが紙の箱を開いた。そこにはチョコレートケーキが2ピースある。
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