12章 回想[朝上家の不祥事]

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 藪柑子のゴミ捨て場を、毎日のように監視する一羽のカラス「ナギ」。  今宵も黒い眼光で玄夢を見つめていた。  玄夢はナギに寄り添うように、シダレヤナギの樹木に背を付けた。  シダレヤナギの垂れた枝は「遮光カーテン」のように訪問者を外界から隔離する。  玄夢は一人だけの空間を得たように心を休めた――が、 「ここは居心地がいいですか?」 「きゃっ!?」  突然背後から聞こえてきた男の声。  玄夢は飛び上がり、後ろを向いた。      樹木の反対側からひょっこり姿を現す、ハーフマスクで目元を隠している黒髪の男性。 「みっ、Mr.グレード、どうしてここに!? ショーが終わって帰ったはずじゃ!」 「ちょっとした手違いで帰りの車が遅れている。ゆえに、しばらくナギと共にこの静かな夜を過ごしていたのだ」 「そう……ですか。迎えが来るまで、もう一度ゲストルームを確保しましょうか?」 「いえ、その気遣いには及ばない。それよりも一つ、あなたに聞きたいことがある」
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