178人が本棚に入れています
本棚に追加
青年はこれぞワイン専門店の接客の見本の如き完璧さで、瀬田へと挨拶をしてくる。
年齢は瀬田とそう変わらないか、下手をすると年下だろう。
礼儀正しいが、瀬田の親友で、バー『住のゑ』に勤めるリッくんこと水原よりは素朴で親しみやすさがある。
目黒は瀬田と秋川とを見つめたまま、カズマと呼んだ青年へとクイッ!とあごをしゃくった。
「店番を頼む。おれはコイツらと話がある」
オイオイ、とうとうコイツら呼ばわりかよ?
おれはともかく、晴季はお得意様じゃないのかよ?と秋川は、心の中でツッコミを入れた。
以前、そう、瀬田の我慢の限界が来た日に確か、店員に顔を憶えられて、色いろと教えてもらった。とか、もうすぐスタンプカードが溜まるから、四千円ぶんのワインと引き換えが出来る。とか話していたような気がする。
それはこの店の、この店員(正確には店主)のことだったらしい。
その後直ぐにそれどころではなくなり、秋川はすっかり忘れていたが。
カズマと呼ばれた青年は慣れてるのか、実に雑な返事を目黒にした。
「はいはい、わかりました。でも、程ほどにしてくださいね。瀬田さんには一度、こっぴどくフラれているんだし」
「うるさいっっ!」
「どうぞごゆっくり」
最初のコメントを投稿しよう!