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「十一年、イタリアはピエモンテのバローロだ。グラスを替えてやるから飲んでみろ」
「いいんですか?」
「気に入ったら買ってってくれ。まけとくから」
イタリアワインの王と称されるのに対して、叩き売りの様な不遜な発言をしてコルク栓を抜いていく目黒はさすがに慣れた手付きで、秋川は素直に見とれた。
気に入ったら買っていけ。と目黒は事無げに言うが、替えられたブルゴーニュ型のグラスにちょうど指一本分注がれたワインは、字が記せそうな程黒ぐろとした色といい、開けたばかりとはとても思えない力強い香りといい、小売価格でも万は超えそうな勢いだった。
ワインがただ好きなだけの、素人の秋川にも判った。
目黒がティスティング用の小さめのグラスに注ぎ、味見をする。
ニヤリと笑う顔がゾクッとする程魅惑的で、秋川にはほとんど悪魔に見えた。
チリのとあるワイナリーがワイン泥棒対策の為に、貯蔵庫に棲み付いていると噂を流した悪魔はきっとこの様な姿をしていたに違いない。と何の根拠もなく、秋川は思った。
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