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8 やっぱり〆は何時も場所で
所謂デパ地下をどれくらい、瀬田の腕を掴んだままで早足で歩いた頃だろう。秋川は、
「あのー、慎一さん、腕」
という、瀬田にしては控えめな呼び掛けで我に返った。
「あっ!悪い?痛かったか?」
慌てて手を放す秋川に、瀬田は困ったような笑いをその整った顔に浮かべて、首を横に振った。
「人目が。おれは別にいいんですけど」
「あ・・・・・・」
ここに至ってようやく、秋川は周囲を見渡した。
全てではないが、ほとんどが女性の客だった。酔っ払いが大手を振って歩く飲み屋街ならいざ知らず、しかも女性の聖域である真っ昼間のデパ地下で男が男を引っ張り回している姿は、ただただ人目を引いた。
秋川と瀬田とは、昨夜の会社帰りの格好のままであることを利用し、外回り営業中のサラリーマンを装うことにした。
と言ってもただ、連れ立って歩くだけなのだが。
「そろそろ昼ですね。どうします?何処かで昼飯食ってきますか?」
瀬田がいかにもサラリーマンらしく、秋川へと提案した。
「そうだな・・・・」
さすがに腹が空いてきた。
お粥などは消化の良い、言い換えれば腹持ちの悪い料理の代表格だろう。
秋川の視線は自然と、ワインが入っている手提げ袋へと吸い寄せられる。
瀬田が察したのか、
「此処でつまみ買って帰って、家で飲みませんか?休みだからいいですよね?」
と持ち掛けた。
「あぁ」
秋川がうれしそうにうなずくと、瀬田も又、うれしそうに笑い返した。
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