さよならだったはずなのに

　ある日ある時、ママが突然ボクに言ってきた。
「直人(なおと)、今度、おうちを引っ越すことになったわよ」
「えっ？　引越し？」
　言われてみると、それなりに思いつくことはあった。
　やっぱり団地は狭いわよね、とか。そろそろもう少し大きな家に住みたいわね、とか。あら、ここいいんじゃない、とか。
　そんなことをパパとママが話してるのを聞いたような気がする。

　ということは、間違いない。
　本当に引越しをするんだ。

「でも……ボク」
「嬉しいでしょ。新しい家にはちゃんと直人の部屋もあるのよ」
「ボクの部屋？」
「そうよ～。子供部屋。ちゃんとベッドも入れてあげるわよ。嬉しいでしょ」
　それは嬉しい。かなり嬉しい。
　自分ひとりの部屋をもらえるなんて。
　なんだかちょっと大人になった気分だもん。
　めちゃくちゃ嬉しい。
　けど。