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ごうごうと、炎の燃える音がする。
がらがらと、建物が崩れる音がする。
「だから、何度も言いましたのに」
ふぅ、とため息を吐く美女。黄金の髪と紫苑の瞳を持つ彼女は名のある侯爵家に嫁いだ娘であった。名前をリリアールという。
住民の、悲鳴が聞こえる。
侵略者の、蹂躙する音が聞こえる。
「わたくしを縛り付けるのをやめろと、何度も言いましたのに」
魔王が復活し、勇者が誕生した。そう信託を受けたのは18年前の話だ。
リリアールは、今年で18歳になる。
広場に刺さる黄金の剣が、虚しくひかる。
黄金の髪がキラリとひかる。
「勇者が男だなんて勝手に決めつけて」
広場に刺さる剣は勇者にのみ抜けると言われており、すでに国中の18歳以上の男は試した。けれど剣は変わらずそこにある。それはすなわちー
「勇者はわたくし。昔話にもあったでしょう、黄金の髪に紫苑の瞳の勇者が魔王を討伐したと、ね」
するりと剣を引き抜き、リリアールは、
国を見捨てた。
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