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月の光に照らされながら、真っ直ぐと家路を急ぐ。
ポケットから取り出した携帯を、悴んだ手で操作して、耳元に当てた。
プルルルルルル……プルルルルル……
「もしもし」
何度目かの呼び出し音の後に聞こえてきた声。
その声を聞いただけで、ホッとした。
うるっと来てしまう程に。
「清野さん?」
すぐに返事をしない私のことを心配して、呼んでくれた声さえ、心に沁みる。
「ごめんね、遅くなって」
「ううん、俺もずっと寝てたから」
「ごめん、起こした?」
「いや、少し前に目が覚めたところ」
「そう。具合どう?まだ熱ある?」
「だいぶいいよ、おかげさまで。
熱も、さっき測ったら下がってた」
「よかった。
何か食べれそう?」
「うん、熱下がったらお腹減ってきた」
「何食べたい?」
「そうだな、うどんとか?」
「わかった、買ってくるね」
「ごめんね、疲れてるのに」
「ううん、こちらこそ遅くなって。
急いで帰るから待っててね」
「うん。気をつけて」
「ありがとう。
じゃあ、またあとで」
「うん、またね」
なんて事のない会話
でも、こんな普通の会話がどんなに幸せなものなのか、今身に沁みて感じている。
またねの約束が、いつかじゃなくて、すぐ近くにある事の安心感
それが、どんなに贅沢なことなのか
その重みを感じながら、足を進める。
早く帰りたくて仕方なくて、自然と早くなった足取りは、いつのまにか駆け足になり、呼吸を早くさせる。
吐く息が白くて、暗闇に吐いては消え、吐いては消えてを繰り返す。
そのスパンが短くなるほどに、どれだけ窪屋くんに自分が早く会いたいかを伝えてくるようだった。
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