446人が本棚に入れています
本棚に追加
会いたいと思う気持ちを、隠さずにすむということが、こんなに自分を楽にさせるなんて思わなかった。
ずっと、相手を気遣って、知らず知らずのうちに、話せなくなってた、自分の気持ちを。
きっと、窪屋くんも、そうだった。
相手を思えば思うほどに、本音が言えなくなって、そうすればするほどに、自分の中に抱え込んでいたんだと思う。
そして、いつのまにか余裕がなくなって、そんなことになっている事にすら、気づけなくなっていた。
大事だからこそのこと…
玲緒奈ちゃんも、同じように一人で抱え込んでしまっていたのかもしれない。
心配するご両親や彼に、心配かけまいと平気な振りをして、大切な人を守るために嘘を吐いて、もうすでに抱えきれなくなっていたのに、それでも笑っていた玲緒奈ちゃんに、何も気づいてあげられなかったことを、本当に申し訳なく思う。
そうやって周りが、彼女のことを追い込んでいたのかも知れない。
みんな必死だった。
玲緒奈ちゃんも
彼も
玲緒奈ちゃんのご両親も
私も
窪谷くんも…
必死で、必死で
必死過ぎて
大事過ぎるからこそ見えなくってしまっていたんだ。
真ん丸の月を見上げて、その光に照らされて
朝、この道を通った時よりも、気持ちが軽くなっていることに気づいた。
その大事な人の元へ一刻も早く帰りたくて仕方がなくて
こんな風に息を切らしてしまった私を、全てお見通しのような顔で出迎えてくれる窪谷くんの顔はいつもとっても嬉しそうで、恥ずかしいと思いながらも、窪屋くんがそんな顔をしてくれる事が、堪らなく私も嬉しかった。
今日もきっと、またその嬉しそうな顔をみせてくれるんだろうなと想像して、また早く会いたいと思って早くなった足が、ますます呼吸を速くさせる。
上がりきった息は、胸が痛いと思う程で、さっきまで凍えていた風の冷たさなんて、もう忘れていた。
痛くても、苦しくても、そんな事どうでもいいくらいに、早く帰りたい。乱れた髪で息を切らした私に、それさえも愛おしそうに微笑んで、『おかえり』と出迎えてくれるあなたの元へ。
「十六夜月」
おしまい
最初のコメントを投稿しよう!