無愛想な彼

1/4

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ

無愛想な彼

教室に吹き込む風に、甘い香りが混じっている。 大好きな、金木犀の香り。秋の匂い。  窓からのぞく空は、すっきりと青くて。いつまでも眺めていたくなる。 「梨乃っ。理科室行こうっ」  麻子に肩をたたかれて、われにかえった。 「えっ、つぎ理科だっけ。英語だと思ってた」  あわてる私に、麻子はしょうがないなとため息をついた。 「なに、ぼーっとしてんの。好きな人のことでも考えてたー?」 「いないし、好きなひとなんて。知ってるくせに」  麻子を軽くにらむ。麻子は最近彼氏ができたから浮かれているんだ。  夏休み明けから、ぽつぽつ、うちのクラスでも「つきあっているひとたち」が増え始めた。 だけど、私はまったくそういうのに縁がない。麻子も、ほかの友だちも、私のことを「オクテ」だと言って笑う。中2にもなって恋もしたことないなんて、って言われる。普通だと思うけどなあ。  教室を出て、麻子と話しながら歩いていたら、どんっ、と大きな何かにぶつかって、はずみで、教科書やノート、ペンポーチを落としてしまった。 「いったあ……」 「大丈夫?」 「は、羽村くん。ごめんなさい」     
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加