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ぶつかった「何か」は、同じクラスの羽村くんの背中だった。羽村くんはすごく背が高い。すでに180センチを超えていそう。
私がまごついている間に、羽村くんはしゃがんで、私の道具を拾いはじめた。
「ご、ごめんなさいっ」
「いいって」
ぶっきらぼうな、低い声。怒ってるんだろうか? 羽村くんは教室でも落ち着いていて、友達といっしょにいても、あまりはしゃいだり騒いだりしない。眉もきりっとつり上ってるし、めったに笑わないし、ちょっとだけ怖いなって思ってた。
何も言わずに、拾ったノートを私に手渡すと、羽村くんは去って行った。
「羽村、いい奴なんだけど。ちょっと無愛想だよねー」
麻子はそう言うと、私のほうを見て、なぜか、にやりと意味ありげにほほえんだ。
「なに?」
「羽村ってさ。梨乃のこと、かわいいって言ってたらしいよ」
「へ?」
私? と、私は自分の顔を自分で指さした。羽村くんが? 私を?
麻子は、こくんとうなずいた。
自慢じゃないけど、生まれてこのかた、男の子に「かわいい」なんて言われたことない。家族や親せきにすら言われない。
思わず、自分のほおを手のひらでつつみこんだ。なんだか、熱い。
私のどこがかわいいの? 羽村くんの趣味が変わってる? いや、そもそも誰かと私を間違えてたんじゃないのかな?
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