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想像もできないよ。あまりにも遠すぎて、自分の存在も、自分の世界も、すごくちっぽけに思えて。
じっと押し黙ってしまった私を見て、羽村くんは、いきなりふきだした。
「えっ? な、なにがおかしいの?」
羽村くんは一生懸命笑いをこらえている。こんなふうに笑うとこ、はじめて見た。
「ごめん。すっごい神妙な顔してたから。つい」
そんな風に言われると、すごく恥ずかしくて、顔が熱くなる。
「今日はこのくらいにして、早く帰らないとな」
そう言われて窓の外を見ると、もう陽は沈んで、オレンジ色の空が、だんだん淡いむらさき色に変わりはじめていた。
いくつか本を借りて、図書室を出る。
「遅いから、送ってく」
つぶやくように、羽村くんは言った。
「あぶないから」
「……いいのに。私の家、遠いよ」
私の声は、なぜか、消え入りそうになってしまった。
「だったら、なおさらだろ?」
小さく、羽村くんがほほえむ。また、笑った。私の心臓、とくとくと鳴っている。
黄昏時の街を、ふたり並んで歩く。
背の高い羽村くんのとなりにいると、149センチの私は、まるで小さな子どもみたいだ。制服を着ていなかったら、高校生と小学生の兄妹に見えるかもしれない。
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