金木犀

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 急に羽村くんは大きな声を上げると、門扉を開いて敷地に入っていった。何だろう?  しばらくすると彼は戻ってきて、私に、金木犀を一枝、手渡した。 「えっ。いいの?」  黙って、羽村くんは頷く。淡いオレンジ色の、可憐な小さな花たちが、甘い香りを放っている。 「ありがとう」  すごく、うれしい。 「早く行こう。遅くなってしまった」  羽村くんは自分の家をあとにして、歩き出した。 「う、うん」 それから彼は、私の家まで、しっかりと送ってくれたのだった。  私は金木犀の枝を、水を張ったガラス瓶に挿して、自分の机に飾った。  甘い香りが私の胸の中に満ちて、そして、全身に広がっていく。  羽村くんは優しいひとだと思った。優しいひとだと思うと、なぜか胸の奥が甘く疼いて、今日彼が見せた笑顔を思い浮かべると、また胸が苦しくなって。  ごはんの味もわからないぐらいだし、お風呂でもぼうっとしてシャンプーを2回もしてしまうし、布団に入っても眠れない。 ――私のこと、かわいいって言ってたって、ほんとかな。  つい、そんなことを考えてしまっていた。  想像の中の羽村くんが、私の目をまっすぐに見つめて、「宮田さんはかわいいよ」と低い声でささやく。 「ひゃああああっ!」     
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