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無愛想な彼
教室に吹き込む風に、甘い香りが混じっている。
大好きな、金木犀の香り。秋の匂い。
窓からのぞく空は、すっきりと青くて。いつまでも眺めていたくなる。
「梨乃っ。理科室行こうっ」
麻子に肩をたたかれて、われにかえった。
「えっ、つぎ理科だっけ。英語だと思ってた」
あわてる私に、麻子はしょうがないなとため息をついた。
「なに、ぼーっとしてんの。好きな人のことでも考えてたー?」
「いないし、好きなひとなんて。知ってるくせに」
麻子を軽くにらむ。麻子は最近彼氏ができたから浮かれているんだ。
夏休み明けから、ぽつぽつ、うちのクラスでも「つきあっているひとたち」が増え始めた。
だけど、私はまったくそういうのに縁がない。麻子も、ほかの友だちも、私のことを「オクテ」だと言って笑う。中2にもなって恋もしたことないなんて、って言われる。普通だと思うけどなあ。
教室を出て、麻子と話しながら歩いていたら、どんっ、と大きな何かにぶつかって、はずみで、教科書やノート、ペンポーチを落としてしまった。
「いったあ……」
「大丈夫?」
「は、羽村くん。ごめんなさい」
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