32人が本棚に入れています
本棚に追加
携帯を取り出して画面にメッセージをたたき込んだ。
【今、どこ?】
ほどなくして返事がくる。
【やっと連絡が来たと思ったら、いきなりだな・・・。ホテルのクラブラウンジだけど?】
会って、打ち合わせする時間も惜しかった。
【アオキって男をそちらへ向かわせる。とりあえず、彼の指示通りに動いて】
【いいけど・・・。ちなみに、アオキってイイ男?】
【・・・さあ?】
【君は相変わらずだね、お姫様】
【幸運を、ジュール】
【君も、そして、君の勝巳も】
画面を閉じて、深いため息をつく。
とある知人に、ちょっとした遊びを持ち掛けた。
ドラマのような出会いと展開をセッティングして、運命の恋を演出してみないかと。
バイセクシャルで、好奇心の塊。
そして何よりも金髪碧眼の容姿であること、欧州王家の血を引くことが、餌になるだろう。
たいした労もなく獲物は食いつくはずだ。
「・・・俺は、何をしようとしてるのかな」
報酬は好きなだけ取らせる。
船でも、城でも、自分の身体でも。
企みが成功するならば、これほど安いものはない。
目を閉じると、広い背中を思い出す。
無骨さを感じる大きな手、予想に反した繊細な指先。
ときどき、深い緑の色に染まる瞳。
そして、静かな声。
『・・・憲』
憲二とも、兄とも、呼ばせなかった。
憲二という名前は、前妻の子である兄の俊一を超えるのは許さないという父の呪詛が込められていた。そして、後妻の子である自分たちはまるで拾った犬のような以下の冷遇ぶりで、真神の中に居場所なんてどこにもなかった。
自分が小さいころに一度、『けん』と呼べと言うと、勝巳は素直に従った。
まだ歩き方もおぼつかなく、言葉も、言葉の意味も、まだよく解らない幼子だったのに。
勝巳。
お前の、望みはなんだ。
最初のコメントを投稿しよう!