借れる命の

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「・・・ああ、もう、そうじゃなくて。とにかく、俺がようやく金子の部屋へ乗り込んだ時には、ちょうど死のうとしているところで・・・」  金子は俊一の大学時代の同級生で、10年に及ぶ金庫番を極秘で務めるほどには有能で、誰にも仕事内容を漏らさずにいられるほど真面目で、善良だった。  ただ、魔がさしたとしか言いようがない。  誰にも知られない、極秘の宝物庫。  なら、自分が持ち逃げした所で、誰にもわからないのではないか。  横領を始めて一年くらいは周囲を警戒して、小さなリゾート地を渡り歩く程度だった。  しかし一年経っても真神家に動きはなく、誰も俊一の隠し財産に気が付いていないと断定した途端、たがが外れた。  いち個人では到底目にすることのない、莫大な金。  当時が好景気だったせいもあり、それはまるで魔法のように増え続けることを辞めなかった。  とにかく、使って使って、使いまくった。  全身を上等なもので身を固め、生粋の金持ちのふりをした。  不思議なことに、出まかせの嘘を誰もがそれを信じ、すり寄ってくる。  金さえあればどの国も人々も必ず相好を崩し、しびれるほどの優越感を味わった。  金で買えるものは世の中にはいくらでもあった。  車も、家も、船も、女も、手に入らないものはない。  だけど。  賭けでどんなに負けたとしても、なぜか次の賭けで倍額になって入ってきてしまう。  大きな買い物をしたとしても、それは手に入れた瞬間、屑同然に変わった。  出口の見えない、金の洞窟。  かき出してもかき出しても、金に囲まれていた。  自分が飲んでいるものは水であって、水にあらず。  抱き寄せた女は、人であって、人にあらず。  金子は、気が狂う寸前だった。 「結果、奴の一年あまりの豪遊でも十分の一にも満たない使い込みにしかなりませんでした。俊一たちが職人のようにコツコツと世界各国に仕込んだ金は、どこの国が傾いても困ることのないよう運営されていたので」 「なるほど。そんな才能が俊一にあったとはな」 「俊一、というより峰岸ですね。金子と密に連絡を取っていたのはあいつだったようなので」 「そうか・・・」  峰岸覚。  先代の愛人の連れ子。  そして、俊一を壊した男。  その名を聞くと、殺しても、殺したりないくらいだと思っていた。  ・・・しかし、今は。
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