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「それで、お前が引き継いだのか」
「はい。隠し財産の、そもそもの目的も聞かされていたので。当時の俺は、ばかばかしいと思ったのですが」
「ばかばかしい?」
「ええ。だって、どこかの国の広大な土地を買って、母さんと、清乃と、俺、そして勝巳と暮らそうって、子供の夢のようなことを真剣な顔をして言ったんですよ、三十を過ぎた男が」
はきすてるに言いながらも、唇に違う感情が漂っているように見えた。
「・・・真神と、私に関わりのない、どこかへ行こうとしていたのか、あれは」
「そうです」
「そうか・・・。そんなことを・・・」
俊一が亡くなって以来、いや、それ以前から何度も見る、家族の夢。
その中ではいつも、誰もが笑っていた。
そうありたいと、彼らが願っていたと思うのは当たり前だろう。
「・・・もっと、驚くと思いました。随分と冷静なんですね」
「ああ・・・。驚いてはいるのだが。俊一は真神家の男であり、峰岸は長田家が育てあげた秘書だ。不思議はないと思ってな」
「・・・逆に、俺の方が驚かされっぱなしですよ、あなたの反応には」
「ああそうか。・・・それは、なかなか愉快だな」
「・・・なっ・・・っ」
「それで。今、これをわざわざ私に知らせるわけは?憲二」
聞かずとも、憲二が現れた時点で解っていた。
いや。
昨日、この場所で、勝巳が無花果を差し出した時から、予感はあったのだ。
近いうちに、真神の庭に、風が吹くと。
それを見届けるのが、自分の役目なのだろう。
罪滅ぼしには、決してならないが。
「これで、真神を買います。永久に」
次に提示された書類の数値は、更に膨れ上がっていた。
「正確には真神本家の不動産全般。勇仁義兄さんの資産はもちろん全く興味ありません。政治家なんてまっぴらですから」
いかにも憲二らしい言葉だと思った。
憲二らしい?
ふと思いなおして、笑いがこみ上げてきた。
「・・・何がおかしいのですか」
憲二は、誰よりも子供らしい子供だったのだな、と、今更思う。
そして、まだ子供のままの子供。
純粋であるところ、頑固なところ、きかん気の強いところ。
愛らしい子供が、ここにいる。
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