105人が本棚に入れています
本棚に追加
/110ページ
「あ、あの…」
彼のシャツからは、あの日と同じ香りがした。少し汗ばんだ体温が私の頬に伝わる。
その香りと体温に、私は思わず溶けそうになる。
「風邪…もういいんでしょ?」
彼の腕の中で、私はコクコクと頷くことしかできなかった。
「おやおやですねー」
不意に後ろから声がした。
「まったく…営業妨害ですよ。うちの店の前で…」
「マスター!」
慌てて、振り向くと腕組みをして立っているマスターがいた。
「そろそろいい頃かな。と思って帰ってきたら、そういう展開でしたか…」
マスターは、ニヤリと笑って言った。
「すみません…。あの…」
「大丈夫ですよ。越くんは、任せてください」
「越くん?」
彼が、怪訝そうに聞いた。
「ん?聞いてないですか?池ちゃんの元旦那ですよ」
「元?」
彼の表情が更に険しくなった。
「マスター…」
これ以上は、やはり自分で彼に話すべきだろうと、マスターを遮った。
最初のコメントを投稿しよう!