第3章

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「あ、あの…」 彼のシャツからは、あの日と同じ香りがした。少し汗ばんだ体温が私の頬に伝わる。 その香りと体温に、私は思わず溶けそうになる。 「風邪…もういいんでしょ?」 彼の腕の中で、私はコクコクと頷くことしかできなかった。 「おやおやですねー」 不意に後ろから声がした。 「まったく…営業妨害ですよ。うちの店の前で…」 「マスター!」 慌てて、振り向くと腕組みをして立っているマスターがいた。 「そろそろいい頃かな。と思って帰ってきたら、そういう展開でしたか…」 マスターは、ニヤリと笑って言った。 「すみません…。あの…」 「大丈夫ですよ。越くんは、任せてください」 「越くん?」 彼が、怪訝そうに聞いた。 「ん?聞いてないですか?池ちゃんの元旦那ですよ」 「元?」 彼の表情が更に険しくなった。 「マスター…」 これ以上は、やはり自分で彼に話すべきだろうと、マスターを遮った。
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