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五時限目、世界史の授業はとても眠い。
ご飯を食べてお腹はいっぱい。
それにしても、財布がなくなったのには困ったなぁ。
ぼんやり黒板を見ながら、何気なく制服のポケットに手を突っ込んでみた。
「……あっ」
あった。財布。
思わずキョロキョロしてしまって、先生と目が合った。
冷や汗が出そうになる。
授業を全然聞いていなかったから、今さされたら答えられないよ。
精一杯に真面目な顔してやり過ごさなければ。
不審そうに眉を動かしたけど、気を取り直した先生が黒板に向き直った隙に、そっとポケットを覗いた。
財布と一緒に紙が入ってた。
何かと思って小さなメモの切れ端を取り出したら、文字が書いてある。
『鍵を返してくんない?
ポケットに入ってた財布、入れとくから。
たぶん、ポケットに入れといてくれれば、いいと思うから』
ポケット?
私は半信半疑のまま、さっきの鍵をジャケットの左ポケットに入れた。
その日から、見知らぬ誰かとポケットの交流が始まった。
『今、英語、リーダー。超ダルい』
『古文の若竹、なよ竹って呼ばれてるの知ってる?』
『アメ入れとく。見つからんように食べな。けっこう、美味いぜ』
短い文章のやりとり。
たぶん……男子だと思うけど、誰なんだろ。
相手の人は、私のこと分かってるのかな?
まあ、誰でもいいけど。
ちょっと、楽しいし。
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