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01 SIDE-K
耳に飛び込んできたのは、近くの波の音と遠くの海鳥の鳴き声。
更に耳を澄ませば、音楽が聞こえる。
微かに。そして幽かに。
音が聞こえそうな程、照りつける太陽。
波と反対側からの、リズミカルなクラクション。
ココナッツが混ざったような、潮の香。
口の中の、血の味。
サラサラの、砂。
砂が入らないように瞳を開ければ、眼前に広がるモノクロームビーチ。
視覚からの情報は、目の奥に鉛のような鈍色の痛みを与える。
どれくらいの間、僕はここで気を失っていたのだろうか?
どれくらいの時間をかけて、僕はここまで流れ着いたのだろうか?
どれくらい考えたら、自分の問いに答えが導けるのだろうか?
そんなことをただ漠然と思案しているのには理由があった。
僕は自分自身に関することを全て忘れてしまっていたのだから。
考えることが面倒になり、ゆっくりと目を閉じた。
沈黙に飽きたら、きっとまた同じ問いを繰り返すのだろう。
僕は再び、いや何度目かの眠りに落ちた、この美しいビーチで。
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