06 SIDE-Loan

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06 SIDE-Loan

ケンは、しばらく食事すら摂っていなかったんじゃないかな? わたしの特製cháoが五臓六腑に染みわたっていくのが、表情からも見て取れる。 確かに米だけなら栄養分は少ないと想う。 でも、そこに香草や鶏肉などを入れて、味も滋養も考えて作っている。 明日はベトナムでは定番のカエルのcháoを作ってあげようかな。 「美味しい」 彼はそう言うと、黙々とスプーンを口に運び、確かめるように咀嚼(そしゃく)した。 少年のような無邪気な笑顔だった。 シャワーで汚れを落とした彼は、意外と幼く見える。 年齢はわたしとそんなに変わらないんじゃないかな。 「良かった。味覚は正常だ」 「どうしたの?」 「……実は、記憶が戻らない他に、目に映る物が全てモノクロなんだ。色が分からない」 「え?! そんなことって……」 カラーで見えないって感覚があるということは、元々は正常な色覚を持っていたということだ。 そうでなければ……モノクロが普通の世界ならば、こんなことは言えないだろう。
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