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「『君のことを愛してる、だからこそ僕は君とともにいけない』」
物語の終盤、主人公がヒロインに語り掛ける愛の言葉だ。
主人公はこの戦いで死ぬことが決まっていた、
だからヒロインの想いにこたえることができなかったのだ。
僕のことは忘れて、君は僕ではない誰かと幸せになってほしい――――
主人公はそう言って、戦いに赴き、そして運命通りに死を迎えるのだ。
「…‥‥私にはこの主人公の気持ちがわかるんだ。私も、きっとそうだから。」
きっとそれは先輩が今、俺に伝えることができる気持ちだ。
主人公のように、俺の想いには応えることができない。
――――――でも俺はそれを都合よく解釈する。
「俺のこと好きじゃなくて、……愛してるってことですかね。」
「ロマンチストだな君は。」
先輩の仏頂面が戻ってきて、そして笑った。
一人で、本を読んでいる横顔も好きだったけど。
俺の冗談にこうして笑ってくれる姿のほうが、もっと好きだった。
「待ってますよ俺は。この物語のヒロインだって最後まで待つって決めてたじゃないですか。」
「死んでいるのに?」
「ファンタジーの世界ですから死人が生き返ることもあるでしょうよ。」
先輩がこの本を選んで俺に気持ちを伝えたのは、きっとそういうことだ。
この物語の主人公とヒロインのように、俺は先輩を待ち続ける。
いつまでもいつまでもだ。
「馬鹿だなあ君は。」
夕日に染まった先輩の顔は、泣いていた。
ああ、そんな顔をさせたくはなかったのに。
俺はそう思いながら先輩の手を握りしめた。
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