物語の先へ

2/4
前へ
/4ページ
次へ
「君が好きではない。」 神経質そうな先輩は、目をすがめて、はっきりといった。 夕日によってオレンジ色に染まった図書室。 先輩と俺の二人っきり。 告白するには最高のロケーション、だと思ったんだが。 「……いやにはっきりいいますね。」 告白して振られる、それはきっと当たり前のことだ。 でも俺の告白も、この人の胸中をなにも揺さぶることはなかったっていうのは。 ちょっと、いやかなりきついことだ。 震える声でそう絞り出すと、先輩はほんの少し顔を歪めた。 「……君が悪いわけではないよ。私の問題だから。」 そういって本当に申し訳なさそうな顔をするものだから、俺は何も言えなくなった。 好きな人に、そんな顔をさせるために告白したわけじゃない。 俺はいつも、図書室のカウンターで静かに本を読んでいるこの人の横顔が好きだった。 ……偏差値の低いこの高校では、図書室を利用する生徒など皆無に等しい。 俺だって図書室に来たのは、図書委員にさせられたからだ。 委員会にでてそれ以降は別にバッくれたってよかった。 でも図書委員のこの人が読んでた本が、俺が昔読んだことがあった本で。 気まぐれでそのことについて話したら、 仏頂面のこの人の顔が、ちょっとはにかみながら笑って。 「……初めてだよこの本を読んでいる人に出会ったのは。私もこの本が好きなんだ。」 俺は別にその本が好きだなんて一言も、と思ったけれど。 その顔を見ていてたら、俺はなにもいえなくなってしまっていたんだ。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加