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1.すきなひと
──大好き。大好き。愛してるよ。大人になったら結婚しようね。
十歳になったばかりのルシアンには、幼いながらも実の両親以上に恋しい人がいた。小学校の教室にて顔を合わせるたびに、自分の気持ちを伝えなければ気がすまない。舌足らずながらも愛を囁くことがルシアンの日課だ。
「ねえ、こーちゃん」
「なんだ? ルーシー」
「ふふっ、なんでもなーい!」
用もないのに名前を呼んでみれば、一回り背の高い男の子は嬉しそうに手招きをして抱きしめてくれる。教室のど真ん中で目立っていようとも、人目を憚ったことなど一度もない。二人だけの世界をよく作っていた。
時々、面白がってからかう者もいたが、ルシアンが絡まれると『こーちゃん』がすっ飛んできては追い払う。まさにヒーローのような存在だった。
ルシアンはイギリス人の父親の遺伝子を濃く引き継いでおり、色素の薄い金髪とビー玉のように澄んだ碧眼をしている。ほぼ真っ黒い日本人の集団の中にいると否が応でも際立つ。
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