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ルシアンの場合は幸いにも、執事であるスティーヴが気づき抑制剤を打ったので未遂に終わったが、突如として襲われた恐怖からしばらくの間、外出困難になってしまった。その状況を危惧したスティーヴが、β性のフェロモンと同じ匂いの香水をプレゼントしてくれた。香水と錠剤タイプの抑制剤を服用し、なんとか克服すると、ますます日本へ戻りたいという気持ちが増した。
「義務教育を終了したら、僕は日本に行きたいんです」
デリックから離れたいという思い以外に、どうして日本に住みたいのか理由を問われてもわからない。恋しい存在がいたはずなのに、出国前の『こーちゃん』と結婚できないと告げられたときのショックや、嫌な記憶に支配されすっかり抜け落ちてしまった。
「Ω性に対する偏見は、イギリスよりも日本の方が強いと言われているのに、それでもあなたは行きたいのですか?」
「……ええ」
「わかりました。認めましょう、私の母国ですもの。ただし、お父さんと話し合って決めた条件があります」
「……条件?」
「ええ、そうです。その条件は────」
大学を卒業するまでに結婚相手を見つけること。もしも見つけられなければ、イギリスに強制送還させられ、両親が懇意にしている人物の息子であるデリックと婚約すること、だった。
それを聞いた瞬間、嫌な記憶をフラッシュバックさせたルシアンは恐怖に慄いた。もしも結婚相手を見つけられなければ、誘発剤を使ってまで襲ってくる男と結婚しなければならない。そんなこと耐えられるはずがない。
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