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「もしかして……α?」
恐る恐る問い返す麒麟に、『熊』は困ったような顔で項を掻いた。
マジかよ…、と麒麟は呆然と心の中で呟く。
麒麟の知っているαとは、生まれつき容姿は端麗で知能も高く、圧倒的なカリスマ性もある。だからこそ社会的地位も高く、組織の幹部クラスは基本的にαで固められるというのがこの社会の常識だ。
けれど目の前に居る『熊』……基、大男はどうだろう。
歳は、三十代半ばくらいだろうか……。
一応短く切られてはいるが、ボサボサの髪に、顎から頬を覆う無精髭のお陰でイマイチ年齢は不詳。
着ている服は首元がくたびれたTシャツに、至って普通のジーンズで、足元は裸足だ。
辛うじて褒めるなら、よく見ると切れ長で形の良い目元くらいだろうか。後は、無駄に逞しい身体。とはいえ、この体格のお陰で、麒麟は一目見たとき、『熊』だと思ってしまったのだが。
見た目だけでも全くαらしくない上に、こんな田舎の山小屋で暮らしているαなんて、聞いたことがない。
麒麟がΩであることも見抜かれてしまったし、おまけに相手はαなら、やはり追い返されるだろうかと思いきや、熊男は握ったままだった麒麟の腕をグイ、と引いて立ち上がらせてくれた。
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