第一話

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「見たところ、山登りに来たって感じでもなさそうだが、迷子か何かか? お前、この辺の人間じゃねぇだろう。どっから来たんだ?」  麒麟の抱えたボストンバッグに目を遣って、男は麒麟がΩだということなど特に気にした風もなく問い掛けてくる。  飄々とした男の態度に拍子抜けしながら、改めて小屋の中を見渡してみると、室内にはあちこちに大小幾つものガラス工芸品が並んでいた。様々な動物や魚、色とりどりの花々など、今にも動き出しそうなほど、繊細な作りの作品の数々に圧倒されていると、男がドアを閉めて苦笑した。 「柄じゃねぇ、と思ってるだろ」 「……コレ、全部アンタが……?」 「一応、今はコレで生計立ててるんでな。ただ、お前がドア開けるなりいきなりまた閉めるもんだから、今日の作業は中断だが」  言われて、さっきまで男が立っていた場所を見ると、確かにドアを開けたときにはかなりの勢いで火を噴いていたバーナーの火が、今は消されていた。 「す、すいません……邪魔して……」 「気にすんな。この町の人間以外が訪ねてくることなんざ、まず無ぇからな。……それで? そのデカイ荷物の理由は話してくれねぇのか?」 「……東京から、こっちに出てきたところで」 「東京!? お前みたいな若いのが、何でまた東京からわざわざ県越えてこんな田舎に来たんだ?」 「………」     
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