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これくらい田舎まで来れば、自分と同じΩは居たとしても、αなんてそうそう居ないだろうと思って麒麟は敢えて長時間電車を乗り継いできただけに、答えに詰まる。まさか、辿り着いた先がαの元だったなんて、全くの想定外だ。
チラ、と男の顔を窺い見てから、麒麟はギュウ、とバッグを抱える腕に力を込めた。
「……αから、離れたくて。……って言っても別に全部のαってわけじゃなくて! その……身内のαの元を、離れたかったんだ」
時々口籠りながら答えた麒麟の頭に、ポスンと大きな掌が乗っかる。え?、と顔を上げる間もなくわしゃわしゃと髪を掻き混ぜられて、麒麟の髪は男と同じボサボサ頭にされてしまった。
「ちょっ……なに────」
「気が合うな。……俺も、自分が嫌になって逃げてきたαだ」
「え……?」
どういうことなのかを問う前に、男はサッと麒麟の手からボストンバッグを奪い去る。
「要は家出ってことだな。どうせもうじき日も暮れる。詳しい話は後でゆっくり聞くとして、取り敢えず今日は泊まっていけ」
「え、でも迷惑じゃ……」
「泊まるアテ、あんのか? 言っとくが、この町には宿なんか無ぇぞ。その格好で野宿してぇっつーなら止めねぇが」
春先用の薄手のニットにスキニーパンツという、とてもアウトドアには向かない自身の服装を見て、麒麟は「お世話になります」と頭を下げるしかなかった。
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