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そんな麒麟の返答に、男の無精髭に囲まれた口元がニ…、と満足げに弧を描く。
「なら一先ず晩飯の支度だ。手伝え」
部屋の奥の扉を顎で示して、男は麒麟のバッグを軽々と提げたまま、さっさと歩き出す。慌ててその後を追い掛けながら、改めて所狭しと並ぶガラス細工の数々に目を向けた。それらが目の前の熊男の手から生み出されたものだとは、やはり信じられなかった。
男が「工房」と言っていたガラス細工だらけの部屋の奥は、思った以上にシンプルなリビングダイニングになっていた。
テレビや冷蔵庫や電子レンジなんかの必要最低限の家電はあるが、余計な物は一切置かれていない。熊男の容姿からてっきりもっと小汚い部屋を想像していた麒麟は、思わず拍子抜けした程だった。
シンプルだけれど無機質さを感じないのは、きっとこの小屋が全て木で造られたログハウスになっているからだ。
この小屋の三倍以上はあるだろう麒麟の住んでいた家よりも、この小屋の方が、余程温かくて居心地が良いように思えた。
熊男から「手伝え」と言われたものの、実際麒麟は冷蔵庫から言われた食材を出したり、野菜を洗ったりするくらいで、男は慣れた手つきであっという間にチキンカレーを作り上げてしまった。
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