第一話

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「普段は俺一人だから、倍となると咄嗟にレシピも浮かばなくてな。ダイニングテーブルも無ぇから、ソファでいいか」  麒麟にそう問いかけながらも、返答を待たずに男はさっさと二人分のカレーをソファの前のローテーブルへ運んで行く。 「あと水持ってくから、先座ってろ」  結局大した手伝いも出来ないまま、麒麟は素直にソファへ腰を下ろした。  料理も随分と慣れた様子だったし、この男は一体どのくらいこの小屋で過ごしているのだろう。「自分が嫌になった」というのは、αであることが嫌になった、ということなんだろうか。  Ωからすれば、αなんて生まれた時点でもう勝ち組じゃないかと思うのだが、そんなαでも、自分が嫌になったりするのだろうか。  ついつい考え込んでしまっていた麒麟の項に、突然冷たいグラスが押し当てられた。 「ひっ!?」  思わぬ不意打ちに悲鳴を上げて竦み上がる麒麟に、男は声を上げて笑いながらテーブルの上に水の入ったグラスを下ろした。 「お前、思ってること顔に出るって言われねぇか?」 「……どうだろう。あんまり、人と関わらないようにしてたから」 「αの俺が、何でこんな山ン中でちまちまガラス工芸しながら過ごしてんのか。αに生まれておいて、『嫌になる』ってどういうことだ。……そんなとこか?」 「……そうだって言ったら、答えてくれんの」     
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