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麒麟が問い返すと、男は少し驚いたように目を瞬かせた後、自分は別に冷蔵庫から出してきたらしいビールの缶を開けて静かに一口呷った。
「……お前も、Ωに生まれたことを『嫌だ』と思ったこと、あるだろ? 多分、Ωなら俺以上にそんな思いしてきてるはずだ。……ただ、αも誰もが勝ち組ってわけじゃねぇってことだ」
少し目を細めて呟いた男は、直後にグイ、と勢いよくビールを流し込むと、「冷めるぞ」とカレーの皿を手に取った。
結局、麒麟が気になっていたことへの答えにはなっていない気がしたけれど、それ以上踏み込むのも躊躇われて、麒麟も促されるままカレーの皿とスプーンを手に取った。
「……いただきます」
そっとスプーンで一口掬って口に含んだカレーは、即席で作られたとは思えないほど、麒麟がこれまで食べたどんなカレーよりも美味しかった。
「美味い……」
思わず素直な感想を零した麒麟に、男が隣で「そうか」と静かに笑う。
「お前、家出してくるくらいだからてっきり今時の擦れたガキかと思ったら、案外素直だし礼儀正しいな。親の躾が良かったのか」
親、と言われて咄嗟に義父の顔が脳裏に浮かび、麒麟は曖昧に笑って誤魔化した。
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