第一話

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「動物じゃなくて、『花麒麟』っていう花から付けたんだってさ。……俺、生まれたときから父親居ないんだ。この名前は、花が好きだった母親が付けた。その母親も、今はもう居ないけど」 「ああ……そうか。悪ぃな、余計なことまで聞いて」  罰が悪そうに、男が項を掻く。その仕草は困ったときの癖なんだろうかと、麒麟は少し可笑しくなった。 「別に、気にしてない。俺の母親もΩだったから、父親が誰かわからないっていう理由も、この歳になったらさすがにわかる」   社会的地位の低いΩは、子を成す為の道具のように扱われることも珍しくない。  母は決して自分の仕事を麒麟に明かすことはなく、幼い頃はいつも夕方になると家を出て行き、早朝に戻って来る母が不思議で仕方なかった。けれど、Ωは社会的立場上、身体を売り物にして稼ぐことが常套化しているのだと知ってから、恐らく母もまた、麒麟が生まれるずっと前から、そうして生活していたのだろうと悟った。  そんな裏社会の中で、Ωが麒麟のように出自のわからない子供を産むこともよくある話だが、生まれた子供の『第二の性』によって、その子供の人生は大きく変わる。Ωの母から生まれたΩの麒麟は、きっとこの先、まともな職になんてありつけない。発情期を迎えてしまえば尚更だ。     
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