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思わず自分でも項を撫でてみたが、噛まれた箇所の皮膚が軽く腫れ上がっているような感触は何となくわかるものの、見た目まではわからない。
「何なら、帰ってから合わせ鏡で見てごらん。立派にマーキングされてるから」
「ま、マーキング……」
月村の物言いについ紅くなる麒麟を微笑ましそうに笑って椅子に戻った月村は、項の傷の所見もカルテに記入しながら続ける。
「でもまあ……遅かれ早かれ、君たちは番になってただろうと思うけどね」
「え? ……どういうことですか?」
トン、と走らせていたペンをカルテの上に置いて、月村が麒麟と向き合うように椅子を捻った。
「君は『運命の番』って、知ってる?」
「聞いたことくらいは……」
αとΩの間には、単なる番よりも更に絆の強い『運命の番』というものが存在するという。
『運命の番』になる相手に出会えば、互いの意思など関係なく、本能的に身体が惹かれ合って番になるそうだが、そもそも『運命の番』のパートナーに巡り合うこと自体が相当稀なことなので、殆どのαやΩは、そんな相手に出会うことなく生涯を終える。だから麒麟も学生時代、クラスメイトが『運命の番』について話しているのを、最早おとぎ話的な感覚でぼんやり聞き流していた記憶がある。
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