第八話

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 熊谷の言葉を思い出して呟いた麒麟に、月村が「やっぱり」と確信したように頷いた。 「いくら暫くΩと接触する機会がなかったとは言っても、いきなり番ったりするようなαじゃないよ、熊谷は」  確かに、二度目の発情期のときも、熊谷は必死に理性を保ちながら、ちゃんと麒麟の意思を確認してくれた。  初めてのときも、二度目のときも、その気があれば熊谷が麒麟を組み敷くことなんて容易いはずなのに、熊谷は決して無理強いしようとはしなかった。 「『運命の番』は、例えお互いが嫌悪し合っていたとしても、本能に逆らえずに番ってしまうくらい強い繋がりなんだ。だけど君たちは、偶然にもお互いに惹かれ合った上で番になった。その繋がりが『運命の番』だったとしたら、こんなに素晴らしい運命はないと思わない?」  月村に微笑まれて、麒麟はどこかフワフワとしたような気持ちでその顔を見詰め返すことしか出来なかった。  今となっては、麒麟と熊谷が本当に『運命の番』なのかどうか、確かめる術はない。けれど、熊谷がかつて辿り着いたこの町に麒麟も降り立ち、熊谷と出会ったことが運命なのだとしたら、それは本当に奇跡的で幸せなことだと思う。     
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