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「……そう。じゃあ、この薬ももうこっちで処分しておくよ。また何か体調に異変があったら、そのときはすぐに診せに来るように」
「はい、ありがとうございます」
月村に一礼して麒麟が診察室を出ると、扉のすぐ脇で痺れを切らして待っていた熊谷にガシッと両肩を掴まれた。
「なんか変なこと言われなかったか!?」
焦った形相で問い掛けてくる熊谷が何だか可笑しくて、麒麟は思わずクスリと笑いながら首を振った。
「熊谷さんの秘密とか、そういうのは聞いてないから大丈夫」
「じゃあ一体何の話だったんだよ?」
怪訝そうに眉根を寄せる熊谷を見上げて、麒麟は改めて月村とのやり取りを思い返す。
「……熊谷さんは、運命って信じる?」
会計待ちの間、ふと問い掛けた麒麟に、熊谷は凛々しい眉を片方持ち上げて「運命?」と問い返してくる。
「……そういうのは、俺はあんまり考えたことねぇな。そもそもガラじゃねぇし」
けど、と一旦言葉を途切らせて、熊谷が隣に座る麒麟へと顔を向けた。
「俺と同じ東京から逃げてきたっつーお前がウチに来たときは、今思えばそういう運命的なモン、感じたかもしれねぇな」
「……そっか」
熊谷の答えに、胸の奥がじわりと温かくなる。
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