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義父の所為でαに対して良い印象を持っていない麒麟も、この時ばかりは義父がαで一流企業のエリート社員故、多忙であることを有難く思った。
これでようやく、義父とも離れられる。
学校生活においては『第二の性』を明かすことは義務づけられてはいないものの、さすがに高校生ともなれば発情期を迎えるΩも少なくないし、αはΩに対して鼻が利く為、Ωが卒業までまともな学校生活を送ることは難しいのが現状だ。
実際麒麟も、発情期こそまだ迎えていないものの、Ωな上に珍しいこの名前のお陰で、高校生活は決して平穏なものではなかった。
揶揄われることなんて可愛いもので、蔑むような言葉をぶつけられたり、時には暴力を振るわれることもあった。もっとも、負けん気だけは強い麒麟は、そんなとき大抵相手と取っ組み合いになり、傷だらけになる度に、Ωに生まれた自身の運命を憎んだ。
麒麟だって、好き好んでΩに生まれたわけじゃない。Ωに生まれた人間の気持ちが、そうでない奴らになんかわかるわけがない。
そんな棘々しい気持ちで過ごしていた学校生活も、やっと今日で終わった。これまで散々麒麟を蔑んでいた連中ともお別れだ。
義父に見つからないように、家を出るときにスマホは庭の池に捨ててきた。
どうせならこの目立ちすぎる名前も捨て置いてきたかったが、さすがにそれだけは叶わなかった。
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