第一話

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「……熊谷勝吾(くまがやしょうご)」 「く、くま……っ」  ボソリと告げられた名前を復唱しようとして、麒麟は堪え切れず途中で噴き出した。 「お前、自分のときは笑うなって言っただろうが」 「だ、だって……その見た目で『熊谷』って……。俺の名前なんかよりよっぽどズルいじゃん」 「見た目通りだって言われると思ったぜ……。クマとキリンで動物園だな」  自嘲気味に笑った熊谷が、麒麟にはジンジャーエールを淹れてきてくれた。 「だから俺のは動物じゃないって」  初対面の、おまけにα相手にこんな風に自然体で話せるなんて、思ってもみなかった。  αといえば、所詮皆Ωを同じ人間とは思っていないような連中ばかりだと思っていたけれど、熊谷のようなαも居るのだということを、麒麟は家を出て来なければ、きっと一生知ることはなかった気がする。  熊谷が和ませてくれる空気のお陰で、家を出てきた不安も、いつしか随分薄らいでいた。  見かけに寄らないこうしたさり気ない気遣いも、αならではなんだろうか。  いつか、熊谷もこの山小屋へ移り住んだ理由を、話してくれるときがくれば良いと密かに思いながら、麒麟は熊谷とジンジャーエールと缶ビールで乾杯を交わした。     
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