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第二話
◆◆◆◆
────あれは、五年前の夏休みだった。
いつものようにエアコンのタイマーをセットしてベッドに入り、眠りに就いていた麒麟は、奇妙な感覚を覚えて目を覚ました。
何だか、首筋に熱を孕んだ風を感じる上に、まるで何かに圧し掛かられているように身体が重い。
「………?」
まだ半分寝惚けた頭で麒麟は身体を捻って仰向けになる。そこで初めて、目の前に義父の顔があることに気付いて、麒麟の意識は一気に覚醒した。
「────ッ!?」
状況が理解出来ず、まともに声を上げることも出来なかった。
母の死後も、毎日遅くまで仕事に打ち込みながらも、優しく良い父親だった義父が、どういうわけかスーツ姿のまま、麒麟の身体に覆い被さっているのだ。
首筋に感じた熱気が、義父の呼気だったことを知って、ぶわっと全身に鳥肌が立つのがわかった。
「と、義父さん……!?」
一瞬酔っているのかと思ったが、義父は元々付き合い程度しか酒を飲まない人だし、今も麒麟の肌に降り掛かる義父の吐息からアルコールの匂いは全くしない。
それなら一体どうして…、と混乱する麒麟の頬を、義父の両手が愛おしむように包み込む。
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