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熊谷はリビングと続きになっているロフトを寝床にしているらしく、麒麟はリビングのソファを寝床として与えて貰った。ソファとはいえ、身体を伸ばして眠れるだけでも麒麟にとっては充分幸せだった。
また義父が部屋に入ってくるのではないかと毎日怯える必要ももうないし、Ωだからと事あるごとに突っかかってくる煩わしいクラスメイトたちももう居ない。
明日からは一体どんな日々が待っているのだろうと、久しぶりにワクワクとした気持ちで眠りに就いた麒麟だったが、ふと首筋に覚えのある熱を感じて、麒麟は反射的に目を覚ました。
……まさか、そんなはずはない。
そう思ったが、肌に感じる熱を帯びた息遣いに、麒麟の身体が先に反応してゾクリと粟立った。
恐る恐る首を捻って、麒麟は思わず息を呑んだ。
「……ッ! 義父さん……!?」
五年前の夏の夜と同じ顔で、義父が麒麟を見下ろしていた。
「なんでここに……!?」
居るはずのない義父に向かって、掠れた声で問い掛ける麒麟の頬を、生温い手がゆっくりと撫でる。
「勝手に居なくなるなんて、いつからそんなに悪い子になったんだ……?」
そのまま麒麟の身体へと這い下りてくる義父の手に、五年前の感触が一気に生々しく蘇る。
「義父さん、やめろよ……! 嫌だ……っ!!」
吐きそうな嫌悪感から無我夢中で叫んだ麒麟は、義父を突き飛ばす勢いで、ソファから跳ね起きた。
────その瞬間。
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