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今まで麒麟に覆い被さっていたはずの義父の姿は消え、代わりにソファの傍らには、心配げにしゃがみ込む熊谷の姿があった。
「え……あれ……?」
状況が把握出来ず、麒麟が肩で息をしながら額を押さえると、そこには冷たい汗がびっしり浮かんでいた。
(……今の……夢……?)
その割には随分と感触がリアルだったが、室内を見渡してみても、義父が居た形跡は全くない。
自分の身体を抱き締めるようにして小さく身震いする麒麟の顔を、熊谷がそろりと覗き込んできた。
「随分うなされてたが、大丈夫か?」
そう問い掛けながら、熊谷がタオルで麒麟の額の汗を拭ってくれる。不快な義父の手の感触も一緒に拭い去ってくれているようで、麒麟はやっと、夢だったのだと確信出来て、ホッと息を吐いた。
「……大丈夫。ちょっと、嫌な夢見て……。起こしてゴメン」
「気にするな。慣れない場所に来て、疲れもあったんじゃねぇか?」
首筋までひとしきり汗を拭いてくれた熊谷が、「ちょっと待ってろ」とキッチンへ向かう。
冷蔵庫から出した牛乳を小鍋で温めてマグカップに注ぎ、そこにハチミツを加えたホットミルクを持って、熊谷は麒麟の傍へ戻ってきた。差し出されたカップを受け取りながら、麒麟は躊躇いがちに口を開く。
「あの、さ……俺、寝ながら何か言ってた……?」
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