第二話

5/24
前へ
/310ページ
次へ
 今まで麒麟に覆い被さっていたはずの義父の姿は消え、代わりにソファの傍らには、心配げにしゃがみ込む熊谷の姿があった。 「え……あれ……?」  状況が把握出来ず、麒麟が肩で息をしながら額を押さえると、そこには冷たい汗がびっしり浮かんでいた。 (……今の……夢……?)  その割には随分と感触がリアルだったが、室内を見渡してみても、義父が居た形跡は全くない。  自分の身体を抱き締めるようにして小さく身震いする麒麟の顔を、熊谷がそろりと覗き込んできた。 「随分うなされてたが、大丈夫か?」  そう問い掛けながら、熊谷がタオルで麒麟の額の汗を拭ってくれる。不快な義父の手の感触も一緒に拭い去ってくれているようで、麒麟はやっと、夢だったのだと確信出来て、ホッと息を吐いた。 「……大丈夫。ちょっと、嫌な夢見て……。起こしてゴメン」 「気にするな。慣れない場所に来て、疲れもあったんじゃねぇか?」  首筋までひとしきり汗を拭いてくれた熊谷が、「ちょっと待ってろ」とキッチンへ向かう。  冷蔵庫から出した牛乳を小鍋で温めてマグカップに注ぎ、そこにハチミツを加えたホットミルクを持って、熊谷は麒麟の傍へ戻ってきた。差し出されたカップを受け取りながら、麒麟は躊躇いがちに口を開く。 「あの、さ……俺、寝ながら何か言ってた……?」     
/310ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4204人が本棚に入れています
本棚に追加