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そう思って見てみるが、確かに片方の耳は長くてだらりと垂れ下がっているものの、もう片方の耳は長さが三分の一くらいしかない。申し訳ないが、やはり正体を知っても、麒麟には「謎の白い動物」にしか見えなかった。
「これも、熊谷さんの手作り?」
「ガラス工芸始める前のな。とにかく何でもいいから夢中になれるモンを探してて、そのときに作ったヤツだ」
「……ガラス工芸選んで、正解だったと思う」
「うるせぇよ」
麒麟の頭を軽く叩いて、熊谷は空になったマグカップを引き取ってくれる。
「……どうだ、眠れそうか?」
手早くマグカップを洗った熊谷が、麒麟の傍に戻ってきて目の前に再びしゃがみ込む。
出会って間もない上に、麒麟がΩと知っていながら、こんな風に親切にしてくれるαが居るなんて知らなかった。
いつまでもここに世話になるわけにはいかないとわかっていても、この時間がこの先ずっと続けばいいのにと、麒麟は初めて味わう穏やかな時間に、そう願わずにはいられなかった。
「ブタウサギのお陰で、眠れそう」
「ブタは余計だ。……ここは田舎だが、俺みてぇなのがこうして好き勝手やってられるくらいには平和な町だから、大丈夫だ。安心して休め」
「……ありがとう」
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