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数日分の着替えや、これまでずっと飲み続けている大量の発情抑制剤が入ったボストンバッグを、膝の上で抱え直す。
Ωには発情抑制剤は基本的に欠かせないものだが、麒麟が飲んでいるものは、ネット上などで出回っている、市販のものよりもかなりキツめのものだった。どうしても、家を出るまでは発情期を迎えるわけにはいかなかったからだ。
その分吐き気や頭痛などの副作用も強く、決して身体には良くないとわかっていたが、麒麟はネットでいつも大量に買い溜めていた。
Ωは一旦発情期を迎えれば、その後は一定期間おきに発情期を迎え、その間は日常生活すらままならなくなる。
取り敢えず無事家は出てきたが、義父が追って来ないことを確認出来るまでは、念の為薬は手放せない。発情期なんて、一生来なければ良いのにと思いながら、麒麟は今も自身を襲う副作用と戦っていた。
ずっと電車に揺られ続けていた所為で、吐き気が強くなり始めている。
窓の外には田畑の間にポツポツと民家が建ち並ぶ長閑な集落が広がっていて、麒麟が住んでいた街には無数に建っている高層マンションや背の高いビルなんて全く見えない。
さすがに余りにも何もない所まで行ってしまうと宿の確保も困難になりそうなので、麒麟は次の駅で電車を降りるべく、座席を立った。
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