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熊谷曰くウサギのぬいぐるみを抱えてソファに横たわる麒麟に、熊谷が毛布を掛けてくれる。「おやすみ」と声を寄越して、ロフトに上がっていく熊谷の姿を見送って、麒麟は受け取ったぬいぐるみをギュッと抱き締めた。
母と二人暮らしだった頃。毎晩仕事で家を空ける母が、寂しくないようにと麒麟に大きな羊のぬいぐるみを買い与えてくれて、毎晩それを抱いて眠っていたのを思い出す。手足もなくて、全体的にモコモコな熊谷作のウサギは、その羊のぬいぐるみに似ているような気がした。
熊谷のウサギの効果なのかどうなのか。その後、麒麟は悪夢にうなされることはなく、朝までぐっすり眠ることが出来たのだった。
「ん……?」
何だか微かに聞こえる気がする作業音に、麒麟はソファの上で身動ぎながら薄らと目を開けた。
見慣れない天井に、一瞬ここはどこだっけ、と思いつつ、両腕でしっかり抱いたままだったブタのようなウサギのぬいぐるみを見て、そうだここは熊谷の家だ、と安堵する。
窓からは明るい陽射しが射し込んでいて、時計を見るともうすぐ九時になるところだった。
こんな時間まで眠ったのはいつぶりだろうと思いながら、麒麟は畳んだ毛布をソファの端に置き、その上に安眠をくれたウサギを置いた。
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