第二話

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 ロフトには、既に熊谷の姿はない。その代わり、キッチンカウンターに、レタスとチーズとハム、それからトマトを挟んだサンドイッチが、ラップのかかった状態で置かれていた。皿の横に、「起きたら食え」と意外にも達筆なメモ書きがあった。 「……あんなガラス細工作ったり、料理上手かったり、おまけに字も上手いのに、裁縫は出来ないんだ」  ソファに置いたウサギを改めて見て、余りの極端さに麒麟は笑う。  先ほどから聞こえている作業音は工房の方から漏れているようで、どうやら熊谷はもう仕事に取り掛かっているらしい。そう言えば昨日は麒麟が突然訪ねてきたお陰で、熊谷の作業を中断させてしまったことを思い出した。  有り難くサンドイッチを頂いたら、そのお礼も兼ねて、改めて謝りに行こうと決めて、麒麟は熊谷お手製のサンドイッチで朝食を済ませた。  ついでに、昨日は家出に精一杯でうっかり飲み忘れていた、発情抑制剤も飲んでおく。  これまではとにかく義父の前で発情しないようにと、それだけを考えて飲み続けてきたけれど、早ければ高校入学時には発情期を迎えるΩも居るので、正直いくら薬を飲んでいても、いつまで抑えられるのかは麒麟にもわからない。  ……もしも、熊谷の前で発情期を迎えてしまったら、どうなるんだろう。  熊谷は自分がαであることも誇張しないし、麒麟がΩであることも気に掛けないで居てくれる。     
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