第二話

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 けれど、Ωが発情時に出すフェロモンは、αにとっては時に理性などあっさり奪ってしまうほど強烈なのだ。  熊谷は、自分が嫌になって逃げてきたのだと言っていた。詳しい理由はわからないが、恐らく彼も麒麟同様、『第二の性』のしがらみから解放されたくて、こうして田舎で暮らすことを選んだのだろう。だとしたら、もしも麒麟が熊谷の前で発情期を迎えてしまったら、きっともうここには居られなくなる。 (……それは、嫌だ)  折角、こんなにも穏やかな時間を与えてくれる場所へ辿り着けたのに。  Ωに生まれた麒麟は、これまで他人から親切にして貰った記憶なんてない。義父だけは親切だったが、それも5年前の一件以来、素直に喜べるものではなくなっていた。だから、そんな自分にも同等に接してくれる熊谷の優しさに、絆されているだけなのかも知れない。  だけど、もしもここを離れることになったら、この先きっと、熊谷みたいな人間にはそうそう出会えないだろう。  それに、一度発情期を迎えたΩは、一定周期でやってくる発情期の所為で、まともな生活なんて送れなくなる。だったら尚更、いつか来てしまうであろう発情期を迎えるまでは、せめて一日でも長く、ここで過ごしたい。  Ωという性に振り回されて、誰彼構わず欲情するなんて、麒麟は絶対に嫌だった。     
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