第二話

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 好き、という耳慣れない単語に、心臓が大きく跳ねる。単に名前のことを言われただけだとわかっていても、サラリと告げられた言葉に咄嗟に上手く反応出来なくて、麒麟は動揺を悟られないように俯くことしか出来なかった。  そんな麒麟の胸の内なんて知らない熊谷は、何やら壁際の棚をゴソゴソと漁り始めた。そこから一冊のファイルを取り出してきて作業台の上に広げ、何かを探すようにページを捲り始める。  落ち着け、と自分自身に言い聞かせるように一度大きく深呼吸してから、麒麟が隣からそろりと覗き込むと、そのファイルには何枚ものガラス細工の写真がファイリングされていた。 「中国の神話にも、『麒麟』って動物が出てくるだろ」 「ああ……なんか、龍と馬がくっついたみたいなヤツ?」 「そうそう……っと、あった、コレだ」  熊谷が開いたページには、今にも飛び立ちそうなくらい躍動感のある、『麒麟』のガラス細工の写真があった。 「え、まさかコレも熊谷さんが作ったとか……?」 「おう、一応な。美術館からの依頼で作ったヤツだ」  まるで、絵画をそのままガラス細工で表現したようなクオリティに、思わず見入ってしまう。 「美術館とかからも、依頼来たりするんだ」 「言っただろ、今はこれで生計立ててるって。そういう依頼もそうだが、ネット通販でもなかなか売り上げ上々なんだぞ」     
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