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ニ、三分走ったところで、静かな車内に停車を告げるアナウンスが流れ、やがて電車は寂れた駅のホームに滑り込んだ。
電車から降りたのは、麒麟を含めてたった三人。麒麟以外の二人は、どちらも齢七十は超えていそうな老人だった。
駅名が書かれた看板も、ベンチも柱も、何もかもが錆びていて、都会育ちの麒麟には、何だか別世界に来たような感じがした。
明らかに最近になってやっと設置されたのだとわかる、駅の中で一際浮いた存在の自動改札を抜けると、駅前はこぢんまりとしたロータリーになっていた。
聞き慣れない地方銀行の看板や、麒麟の育った街では見たことがない名前のコンビニらしき店。少し先に、他よりちょっとだけ背の高い建物があって、『月村病院』と書かれた看板が見えたが、ぐるりと見渡してみて目につくものというと、そのくらいだった。
駅前だというのに、人通りも少なければ、信号機だってない。すぐ傍に立つバス停の時刻表を見ると、朝・夕の通勤通学時間帯以外、どうやらバスは一時間に一本しかないようだ。
「……ヤバイ。泊まるトコ、あんのかな……」
駅前には見たところ宿は無さそうなので、麒麟は降りる駅を間違えたかと少し後悔しながらも、暫く辺りを散策してみることにした。
外の風に当たったお陰で、吐き気は随分と治まってきた。
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